
2023年11月24日、東京・港区麻布台に日本一の高さを誇る超高層複合施設「麻布台ヒルズ」が開業した。地上64階、高さ325.2メートルの「森JPタワー」を中核とするこの巨大プロジェクトは単なる高層ビルの建設を超えて日本の都市開発史における新たな一章を刻んでいる。
森ビル株式会社が約30年の歳月をかけて実現したこの壮大な計画は、「Modern Urban Village」というコンセプトのもと、住居、オフィス、商業施設、文化施設、医療施設、教育施設を一体化した、まさに「垂直の街」を創造している。
総事業費は約5,800億円に及びこれは日本の民間単独開発プロジェクトとしては史上最大規模となっている。
30年越しの構想が結実するまで

麻布台ヒルズの構想は1990年代初頭に遡る。
当時の森ビル会長であった森稔氏が六本木ヒルズの成功を踏まえて次なる大型開発として着想したのが始まりだった。しかしこのエリアには多数の地権者が存在し合意形成は困難を極めた。
転機となったのは2011年の東日本大震災で防災性の高い街づくりの必要性が広く認識されたことだった。最終的に2014年に都市再開発法に基づく市街地再開発事業として認可を受け、本格的な建設が始まった。
この開発において森ビルは「一軒一軒の家を回って説明する」という地道なアプローチを継続した。担当者の中には、同じ地権者の元を100回以上訪問した者もいるという。このような人的な努力が、最終的に99%を超える同意率を実現する原動力となった。
スカイロビー:東京タワーを望む天空の展望空間

麻布台ヒルズの目玉の一つが森JPタワー33階にある展望台「スカイロビー」。
東京タワーの真正面に位置し東京タワーを見下ろす絶景が楽しめ、2023年11月の開業当初は無料で一般公開され多くの観光客や地元住民で賑わっていた。画像はその当時のもの。

しかし、2024年4月17日をもって一般公開は終了し翌18日からテナント入居者や特定の施設利用者のみが利用可能となった。
現在、一般人がスカイロビーを利用するには、ヒルズハウス麻布台の施設(例:Dining 33、Sky Room Cafe & Bar)を利用する必要がある。

Sky Room Cafe & Barで1,000円ちょいのコーヒーなどを頼めばこの景色を楽しめる。自分のように写真が趣味の人にとってはお得な金額。

ここまで東京タワーを真横から撮影できるシチュエーションはそうそうない。望遠レンズがあれあレインボーブリッジあたりも撮影できる。
ただ室内が明るいので撮影難度は高めのシチュエーション。
建築の革新:世界最高水準の技術と美学の融合

麻布台ヒルズの設計には世界的に著名な建築家が参画している。
メインタワーである森JPタワーの設計を手がけたのは、ペリ・クラーク・ペリ・アーキテクツ。同事務所の創設者であるセザール・ペリ氏はマレーシアのペトロナスツインタワーや東京の六本木ヒルズ森タワーなどを手がけた世界的巨匠として知られている。

建物の外観は、画像からも見て取れるように、流動的な曲線美が特徴的だ。特に低層部分の波打つような横ストライプのファサードは、まるで音楽の五線譜のように美しいリズムを刻んでいる。

これは「Urban Ribbon(都市のリボン)」というデザインコンセプトを体現したもので、硬質なビル群の中にあって有機的な柔らかさを演出している。

夜間のライティングも見どころの一つで、建物全体が暖かな金色の光に包まれる様子は、まさに現代の灯台のような存在感を放っている。LED照明システムは季節や時間に応じて色彩を変化させることができ、東京の夜景に新たな魅力を加えている。

建物の材質にも高級感が感じられ、外壁には高品質のガラスカーテンウォールと石材が使用されている。特にガラス面の反射により、周囲の建物や空の色彩を取り込んで表情を変える様子は、まさに生きた建築としての魅力を醸し出している。

高層部分に向かって徐々に細くなるタワーのシルエットは、東京の夜空に対してエレガントな印象を与えている。これは風荷重を軽減する構造的な合理性と、視覚的な美しさを両立させた設計の妙技と言えるだろう。

地上レベルから見上げた際の迫力も特筆に値する。画像からも分かるように、建物の根元部分では曲面を多用したデザインにより、圧迫感を軽減しつつも存在感のある印象を与えている。周辺の街路樹や歩道との調和も考慮されており、都市景観への配慮が随所に感じられる。
立地の妙:東京の心臓部に位置する戦略的ロケーション

麻布台ヒルズが建つ港区麻布台は、東京の都心部でも特に利便性の高いエリアとして知られている。東京タワーから約400メートル、皇居から約2キロメートルという立地は、まさに東京の中心的な位置を占めている。
地形的な特徴として、このエリアは武蔵野台地の東端部にあたり、標高が比較的高い(約20メートル)ことから、古くから風光明媚な高台として親しまれてきた。江戸時代には大名屋敷が建ち並び、明治以降も政財界の要人の邸宅地として発展した歴史がある。
東京の新時代を告げるシンボル

麻布台ヒルズは、単なる高層ビルを超えて、21世紀の東京が目指すべき都市像を具現化した存在と言える。森ビルが掲げる「垂直庭園都市」の理念のもと、住居、業務、商業、文化の各機能が有機的に統合された空間は、これからの都市開発における新たなモデルケースとなることだろう。
東京タワーとの絶妙な位置関係、そして夜間に浮かび上がる美しいシルエットは、東京の新たなアイコンとして多くの人々に愛され続けることになるはずだ。
30年の歳月をかけて実現したこの壮大なプロジェクトは、東京という都市の進化の歴史に新たな1ページを刻んでいる。