アッヴィ(AbbVie)は、アメリカ合衆国シカゴに本拠を置く世界的な製薬会社。
元はアボットラボラトリーズの一部だったがヒュミラ(一般名:アダリムマブ)というリウマチ薬が売れすぎたのでその部門を分社化し株主価値を向上させるという経緯で誕生したのがアッヴィ。
ヒュミラは腫瘍壊死因子(TNF-α)と呼ばれるタンパクを標的とする抗体医薬品。リウマチなど自己免疫が過剰になっている患者はこのTNF-αが過多に発現している場合がありヒュミラの標的はそのTNF-α。
昔の免疫疾患はステロイドを使って体全体の免疫を抑制する治療方法だったがそれだと副作用もでやすい。リウマチや潰瘍性大腸炎などの治療において効果でも副作用の面でも精度を向上させたのがヒュミラという薬。
ヒュミラを使うとそれまでの治療より効果を実感しやすい、そしてヒュミラをやめるとまた症状が出るので使用をやめるのは困難。
なのでヒュミラは使いだしたらずっと使われる薬。販売している製薬会社からしたら理想的な薬。
アッヴィはそんなヒュミラのヒュミラによるヒュミラの為の会社だった。
だがどんな薬も特許切れという問題が付きまとう。既にヒュミラのバイオシミラーであるアダリムマブBSが登場しておりこれから売り上げは下降していく。
ではアッヴィ社はもう終わりなのかというとそうではない。毎年ヒュミラの莫大な売り上げを使って製薬会社を買収したり自社で新薬を開発しヒュミラの特許切れに備えてきた。
2019年にボトックスやヒアルロン酸注射で有名なブランドを持つアラガンを630億ドルで買収し医療用医薬品以外の分野にも進出。
医療用医薬品ならヒュミラと同じリウマチ治療薬リンヴォックや乾癬治療薬スキリージが順調に売り上げを伸ばしている。
ただそのリンヴォックやスキリージを足しても売り上げは2022年時点でヒュミラの6割に届かない。
なのでアッヴィはヒュミラの売り上げ減少を補うべくこれから更に新薬や買収をして製品ポートフォリオを強化していかねばならない。そうしないとアッヴィはアボット時代を含め50年以上増配している配当キングの立場が危うくなる。
このアッヴィ株に投資するときに考えるべきはヒュミラというマイナスをその他の新薬で埋められるか、バランスを取れるかという点にある。
ちなみにアッヴィという変な名前の由来は元の親会社である「 Abbott 」と、「生命」を意味するラテン語の語源を表す「vie 」から。
アッヴィの歴史
1888年:ウォレス・アボット医師がアボット・アルカロイド・カンパニーを設立
アボット医師は開業医の傍ら薬局も経営しており植物から抽出した医薬成分を販売。
それまでアボットはキニーネやコデインといったアルカロイドを患者に処方していた。しかし液剤しかなく時間が経つと腐敗するなど使い勝手が悪かった。
そこでベルギーで固形アルカロイド製剤の製法が開発されたと聞きそれを参考にアボットが製造すると高いクオリティにより大ヒット。
1915年:Abbott Laboratoriesに名称変更
1916年:戦場での傷を清拭するために防腐剤クロラゼンを開発
1921年:ウォレス・アボット医師が亡くなる
1922年:アーネスト・ヴォルワイラー博士とロジャー・アダムス博士が、画期的な麻酔薬第一号であるブチルアルコールベースの麻酔薬ブチンを開発
1929年:大恐慌の年にアボットがシカゴ証券取引所にて新規株式公開。22000株を32ドル(当時価格)で。
1935年:手術で活躍する麻酔薬「ペントタール (一般名:チオペンタールNa)」を発売
1952年:マクロライド系抗生物質エリスロマイシンを開発
1962年:大日本製薬株式会社との合弁事業に参入
1963年:血中甲状腺ホルモン測定器Triosorbを開発
1964年:人気の高い乳児用ミルクメーカーであるM&R Dieteticを買収
1972年:放射性免疫測定法による血清中の肝炎診断機「オースリア」を発売。
1979年:抗てんかん薬デパケン(一般名:バルプロ酸ナトリウム)を販売開始
1985年:世界で初めてHIV抗体検査を開始
1994年:吸入麻酔剤であるセボフルランを導入
1991年:マクロライド系抗生物質クラリスロマイシン(和名:クラリス)を大正製薬から導入
1996年:世界初のHIVプロテアーゼ阻害剤リトナビル(和名:ノービア)を開発
2001年:ドイツ化学会社BASFの医薬品部門であるKnoll社を現金69億ドルで買収。
このKnoll社が開発していたコードネームD2E7がのちのヒュミラ
2002年:初のヒト型抗ヒトTNAαモノクローナル抗体「ヒュミラ」の承認をFDAより取得
2004年:病院向け製品部門をHospiraという新会社として分社化
2007年:コスファーマシューティカルズを37億ドルで買収
2009年:Advanced Medical Opticsを買収
2010年:ベルギー化学会社Solvay S.A.の医薬品部門を45億ユーロで買収
この買収で2023年現在でも毎年10億ドル以上を売り上げるリパクレオンを手に入れた。
2013年:ヒュミラなど医療用医薬品の販売と開発に専念する会社としてAbbVieがスピンオフ
2014年: 最先端の連続血糖モニタリング システム FreeStyle Libre発売
2015年:ファーマサイクリックスを210億ドルで買収し抗がん剤イムブルビカを手に入れる。
2019年:アイルランド製薬のアラガン社を630億ドルで買収し美容業界へ進出
アッヴィ社の売り上げ
(通貨単位:100万米ドル)
2013年時点ですでにヒュミラは年間売上100億ドルを超えていた。しかしその勢いは10年後の2022年まで続き210億ドルに成長。2013年で売れすぎと言われていた薬だがそこから更に倍に。
(通貨単位:100万米ドル)
ただアッヴィ社の売り上げは2013年から2022年を見ると3倍以上に増加しておりヒュミラ以上に早く成長している。ヒュミラは一番高い時でアッヴィ社の売り上げの3分の2を占めていたが2022年だと37%まで低下している。
これは主に2019年に買収したアラガン社のおかげ。
アラガン買収の成功
(通貨単位:100万米ドル)
ボトックスで有名なアラガンを2019年に630億ドルで買収したときは割高感があった。しかし2022年になるとボトックスブランドの売り上げは2倍に成長し53億ドルになった。
コロナ禍であっても世界の美容医療市場は好調に推移しており毎年二けた成長している。その恩恵をアラガンが保有するボトックスやジュビダームといった製品群は受けている。
ボトックスはボツリヌス菌、ジュビダームの中身はヒアルロン酸であり物質特許は当の昔に無くなっているが、それゆえに特許切れの心配がない。これはヒュミラの特許切れに常に悩まされてきたアッヴィにとってはありがたい存在。
アッヴィは2030年までに美容分野の売り上げを90億ドルまで成長させようとしている。2023年第一四半期の美容分野の売り上げは13億ドルで中国市場の好調さを反映。これからもこのトレンドは継続するはず。
そしてアラガンが開発していた統合失調症治療薬Vralar(一般名:カリプラジン)がわずか3年で売上20億ドルへ成長。
カリプラジンは統合失調症治療のゴールドスタンダードであるリスペリドンやアリピプラゾールといった実薬との比較で統計的に優位な成績をたたき出した。
まだ日本では承認されていないが仮に承認されたら売り上げは50億ドルにいく可能性がある。
カリプラジン以外にも有望な薬があり片頭痛の急性期治療薬ubrogepantと予防薬atogepantは年間売上10億ドルの売り上げが見込める。
日本でも承認販売しているアラガンの薬だと過敏性腸症候群治療薬リンゼスや膵消化酵素補充剤リパクレオンが地味に10億ドルの売り上げがある。
スキリージとリンヴォック
上記のアラガンの資産由来の薬も重要だがアッヴィの株価に一番影響するのはスキリージとリンヴォック。この2つで2023年は100億ドルの売り上げをアッヴィは見込んでいる。
2023年Q1決算を見ると前年同期比でそれぞれ45%、48%の増加となったので目標達成は可能。2027年時点で200億ドルを超える可能性もある。そうなるとヒュミラの売り上げピークに届く。
スキリージとリンヴォックが最重要な理由はそれらがヒュミラと同じ免疫学の薬だからである。ヒュミラが使われなくなってもより優秀な薬が自社にあれば売り上げは落ちない。
スキリージもリンヴォックも使える病気が拡大しており特にスキリージは潰瘍性大腸炎に対する治験で有望な結果がでている。仮に潰瘍性大腸炎で承認が取れると一気にヒュミラの売り上げを追い越せるかもしれない。
リンヴォックも既に日本でアトピー性皮膚炎や円形脱毛症などヒュミラにはなかった効能効果が認められている。英国など一部の国でクローン病治療薬として承認されるなどまだまだ売り上げ成長が見込める。
アッヴィ株のリターンを振り返る
2013年 | 2022年 | 年平均成長率 |
$10,000 | $60,660 | 18.89% |
2013年1月に1万ドルをアッヴィ株に投資してれば2023年5月には6万ドル。6倍になっていた。年平均成長率は18.89%であり同じ時期のS&P500の12.9%を大きく超える高リターン。
過去10年が高リターンだからこれからの10年も高リターンとは限らないが薬のポートフォリオをみると手堅いリターンが得られるように思う。