- 強オピオイド麻薬の6種類はすべてオピオイドμ受容体アゴニスト
- 弱オピオイドと違い増量すればするほど鎮痛効果↑
- 6種の強オピオイドに共通する併用禁忌薬はセリンクロ(一般名:ナルメフェン塩酸塩水和物)
- ベルギーのヤンセンが開発したフェンタニル以外はすべてドイツ製
- 代謝経路はCYP or グルクロン酸抱合。薬物相互作用に関わるのはCYPで飲み合わせ注意
そもそもオピオイドって何?
人類が紀元前から痛み止めとして使用していたケシの実。
その中から採取された阿片(opium)に含まれているモルヒネ、そのモルヒネと同じような薬理活性を有する薬物の総称がオピオイド。
強オピオイドは末期がんなど強烈な痛みに対しても効果があり、しかも天井効果がなく増量すればするほど鎮痛効果が増強される。副作用で使えなくなるまで増量できる。
トラマドールなど弱オピオイドは天井効果があり鎮痛作用に上限があるのでがん治療やホスピスにおいて強オピオイドは必須の医薬品。痛みに苦しむ人類に神が与えた贈り物。それがオピオイド。
ただオピオイドは良いことだけでなく悪いこともある。副作用も多々あるがそれ以上に問題なのが習慣性が高い。μ受容体には多幸感を生じる作用があるので習慣性が生じる。幸せはμ受容体の中にあるのか?
アヘン戦争でイギリスが清に売りつけて清国内が中毒者だらけになり清の社会は荒廃した。
現代では逆に中国がモルヒネより100倍強力なフェンタニルを製造しアメリカに非合法に流通させてアメリカで大きな社会問題となっている。
扱い方によっては神の薬にも悪魔の薬にもなる。それがオピオイド。
モルヒネ
- 紀元前から使われている人類必須の痛み止め
- ケシの実から採取される阿片の主成分であり天然のアルカロイド
- このモルヒネを元に無水酢酸などでアセチル化すると・・・
- 生体内利用率は約25%
- 様々な剤型(経口、静脈、直腸、硬膜外、クモ膜下)がありどんな患者さんにも使用可能
- グルクロン酸抱合で代謝される
- 活性代謝物M6Gは腎から排泄
- 腎機能が低下しているとM6Gが蓄積して副作用が起こりやすい
- 非活性代謝物M3Gに鎮痛作用は無い。
- CYPを介さないので薬物相互作用が少ない
- 天井効果が無い(増やせば増やすほど鎮痛効果も増強される
- 呼吸困難に使用される(適応外だが)
オピオイドといえばモルヒネ、がん疼痛緩和ガイドラインでも第一選択薬。
これまで最も使用されてきたオピオイド鎮痛薬。なぜそんなに使われてきたのかといえば様々な剤型(経口、静脈、皮下、直腸、硬膜外、クモ膜下)がありどんな状況でも使える利便性の高さ。
モルヒネより強力なオピオイドはあるがまずは経口のモルヒネが選択されることが多い。モルヒネには天井効果が無いので副作用で使用できなくなるといった状況でない限り増量できる。
モルヒネ投与で注意すべきは腎機能障害の患者さん。
モルヒネはグルクロン酸抱合を受けてM6GとM3Gという代謝物が生じる。M6Gはそれ自体が強力な鎮痛作用を持っている(M3Gには活性が無い)。それらの排泄経路が腎臓なので腎機能が低下しているとM6Gが溜まってしまい中毒を起こす。
なので透析など腎機能が低下してる場合は他のオピオイドを選択するなど工夫するべき。
なおモルヒネ製剤には塩酸塩と硫酸塩があるが臨床的に効果は変わらない。ただ硫酸塩はすべて徐放製剤なので塩酸塩の方が使われる頻度が高い。
適応外だがモルヒネは呼吸困難に使われることがある。
オキシコドン
- 1916年にドイツで初めて合成された100年以上の歴史ある強オピオイド
- 経口オキシコドン20mg=経口モルヒネ30mg
- 1日2回定時に服用するオキシコンチンとレスキューのオキノームのコンビが活躍
- 腎機能障害があっても慎重に使える
- モルヒネより便秘や痒みが起こりにくい
- 生体内利用率は約60%
- CYP2D6で代謝されたオキシモルフォンは活性あり
- CYP3A4で代謝されたノルオキシコドンは活性無し
- 薬物相互作用が起こりやすい
- 腎機能低下の人に使いやすい(モルヒネと比べて
- オキシコンチンTR錠とオキシコドン徐放錠NXは乱用防止製剤
薬物乱用大国アメリカで大人気のオキシコドン。
医者から処方してもらった錠剤を粉末に砕いて鼻から吸ったり、水に溶かして注射したりするジャンキーが街に溢れてアメリカの社会問題となっている。
我が国がそんなオピオイドクライシスに陥らないために製薬会社が工夫して作ったのがオキシコンチンTR錠とオキシコドン徐放錠NX。
オキシコンチンTR錠は超固く作られているのでハンマーで思いっきり叩いても粉までは砕けない。なら水に溶かそうとしてもドロドロのゲルになってしまい注射も不可となっている。このゲル化成分はポリエチレンオキシド。
オキシコドン徐放錠NXは添加物としてμ受容体拮抗薬ナロキソンが入っている。
内服する場合はナロキソンが肝初回通過効果により無効化されオキシコドンのみ効果が発揮される。しかし注射したらナロキソンが初回通過効果を受けないで体内に入るのでオキシコドンと拮抗してしまいオピオイドとして効果が得られない。
オキシコドンはモルヒネと違いCYP3A4とCYP2D6で代謝を受ける。そしてCYP2D6で代謝されたオキシモルフォンは鎮痛効果がある。しかし生成されたオキシモルフォンは微量なので臨床的な影響はほぼ無い。故に腎機能が低下している患者さんには使いやすい(モルヒネよりは)。
フェンタニル
- 脂溶性が高いので経皮的に吸収できる
- フェントステープ1mg=デュロテップMTパッチ2.1mg=経口モルヒネ30mg
- μ受容体の中でもμ1サブタイプに選択性が高く消化器症状が少ない
- 生体内利用率は約92%
- CYP3A4で代謝を受け、その主要代謝物は活性が無いノルフェンタニル
- 活性代謝物が無いので腎機能が低下している場合でも使いやすい
- アメリカではオキシコドンと並び乱用薬物の主役
- 禁忌は本剤過敏症とナルメフェンのみ
フェンタニル製剤とモルヒネやオキシコドンとの大きな違いはその吸収性。水溶性のモルヒネやオキシコドンと違いフェンタニルは脂溶性が高く分子量が小さいので皮膚から吸収されやすい。
デュロテップMTパッチやフェントステープは内服が難しい患者さんでも介助者が張るだけでいいので便利。
口腔用のイーフェンバッカルやアブストラル舌下錠も使われているが突出痛の鎮痛にしか保険適応が無い。オキノームは定期薬としてもレスキューとしても使えるのに比べると制限がある。
ただオキノームやオプソ内用液よりもイーフェンバッカルやアブストラル舌下錠はより早く効果が表れるというメリットもある。
受胎体レベルの話をするとフェンタニルは鎮痛効果に一番関わるμ1受容体に選択的に作用する。便秘や吐き気といったμ2受容体への影響がモルヒネより少ないのでそれらの副作用が少ない。
同じ重さアタリの鎮痛効果はモルヒネの100倍と言われるフェンタニルだが意外にも禁忌は少ないので使いやすい。
タペンタドール
- タペンタドール100mg=経口モルヒネ30mg
- ノルアドレナリン再取り込み阻害作用あり
- グルクロン酸抱合を受ける、活性代謝物は無し
- タペンタ錠は改変防止製剤(Tamper Resistant Formulation:TRF)
- 徐放性製剤なのでかみ砕かないこと(硬くて砕けないけど
- モノアミン酸化酵素阻害薬は禁忌
- 同成分のレスキュー製剤が無いのが難点
- トラマドールを元に開発
シード物質トラマドールは弱いオピオイドμ受容体刺激作用とSNRI作用を有する。そのトラマドールとは違いセロトニン再取り込み阻害作用は無い。あるのはノルアドレナリン再取り込み阻害作用のみ。
タペンタドールはグルクロン酸抱合で代謝されるのでCYPの影響を受けない。代謝物も活性が無い。じゃあ飲み合わせも安心、とはならない。
セリンクロは当然併用禁忌としてもう一つ一緒に服用できない薬がある。それがモノアミン酸化酵素阻害薬。具体的にいうと
・セレギリン塩酸塩(エフピー)
・ラサギリンメシル酸塩(アジレクト)
・サフィナミドメシル酸塩(エクフィナ)
上記のモノアミン酸化酵素阻害薬は服用が終わってから2週間以上経過しないとタペンタドールは服用できない。この制限は服用終わってから一週間制限があるセリンクロよりも厳しい。
ノルアドレナリン再取り込み阻害作用があるからことを知っていれば覚えやすい。
オキシコンチンTR錠と同じく乱用防止製剤であり添加物としてポリエチレンオキシドが含まれている。
ヒドロモルフォン
- 2017年に日本承認
- 世界的には1920年代に既に合成されていた
- ヒドロモルフォン6mg=モルヒネ30mg
- 定期薬もレスキューも錠剤
- グルクロン酸抱合なのでCYPの絡みが少ない
- 代謝物のヒドロモルフォン-3-グルクロニド(H-3-G)に活性は無い
- たがH-3-Gには神経毒性がある
定期薬のナルサスは1日1回服用タイプ。
モルヒネのやオキシコドンの定期薬は1日2回服用しなければならないので1日1回タイプはメリット。
レスキュー製剤のナルラピドの効果発現時間は約20分でアブストラルなどに比べて少し遅め。ナルサスと同じ錠剤だが形状が五角形と特徴的なので間違えにくい。
代謝物H3Gには鎮痛効果が無く腎機能が低下している人で血中濃度が高くなっても過剰量にはならないが神経毒性があるのでやはり慎重投与。
メサドン
- 最強オピオイド
- モルヒネを60mg/day以上使っても鎮痛が難しい時の選択肢
- 強さの秘密はμ受容体刺激作用+NMDA受容体拮抗作用+SNRI作用
- 一般的なオピオイド薬が苦手な神経障害性疼痛にも効果的
- 半減期が長く個人差も大きいので使い方が難しい
- 他のオピオイドとの鎮痛同等量比などは定められていない
- QT延長を起こしやすいので初回投与や増量時には心電図検査など必要
- 処方するにはためにはE-ラーニング必須
- アメリカではヘロイン中毒患者に対してメサドン維持療法として使用
メサペインは他の強オピオイドでも抑えられない時に使う最終兵器。WHOの三段階ラダーの中でも頂点に位置する。第4段階薬といってもいい。
なぜそんなに強力なのかと言えば痛みを抑えるルートが3つもあるから。
メサペイン=μ受容体刺激作用+SNRI+NMDA受容体拮抗作用
超強力で頼もしいのだが他の強オピオイドより注意すべき副作用がある。
メサペインはQT延長(15.4%)が起こりやすい。なので新規に処方するとき、増量するときは心電図検査などが必須。油断すると致死的な不整脈が起こってしまう。
服用を始めてから鎮痛効果がでるまで時間がかかるので他のオピオイドからスイッチするときに切り替えが難しい。
それまでも強オピオイドを完全にやめてメサペインを開始してしまうと痛みが症状かもしれなのでそれまでの強オピオイドを少量にしてメサペインを少量開始する方法もある。
この薬を処方するにはe-ラーニングを受講しないと処方できない。
強オピオイド薬の禁忌
6種に共通する禁忌薬はナルメフェン塩酸塩(商品名:セリンクロ)。
ナルメフェンがオピオイドμ受容体に競合的に作用して鎮痛効果が減弱してしまう。しかもナルメフェンはただの併用禁忌薬でなく服用中止して一週間以上経過しないとオピオイド薬は服用できないという縛りがあるので気を付けよう。
オピオイド薬は全般的に呼吸抑制するので重篤な呼吸抑制状態や喘息発作中には禁忌。
だがフェンタニルにそれらの状態でも6種の中で唯一禁忌ではない。フェンタニルは禁忌が本剤過敏症とナルメフェン以外無いので使いやすく覚えやすい。
タペンタドールはノルアドレナリン再取り込み阻害作用という他のオピオイドに無い作用機序を持つので禁忌でもMAO阻害薬とは禁忌となっている。
エフピーは覚せい剤原料で処方や調剤するときに嫌でも意識するがアジレクトなどはサラッと出てくるので気を付けよう。
強オピオイド薬の問題
[モルヒネ、オキシコドン、フェンタニル、タペンタドール、ヒドロモルフォン、メサドン]