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【タケプロンS】プロトンポンプ阻害薬の違い 【パリエットS】

Posted on 2025年1月6日2025年1月6日 by 丿貫


胃潰瘍はかつては命に関わる病として恐れられていた。

唯一の治療手段は外科手術。病巣を切除し胃の一部を取り除くという方法。

だがこの手術は患者にとって大きな負担であり、回復までの道のりも険しかった。そんな絶望の時代に現れた一筋の光、それがH2ブロッカー

1970年代、胃潰瘍治療にH2ブロッカー(タガメット等)という新しい武器が誕生した。


この薬は胃壁細胞にあるH2受容体をヒスタミンに代わりブロックし胃酸分泌を抑える。

H2ブロッカーの登場は革命的だった。それまでの制酸剤はただ酸を中和するだけの対症療法だったが、シメチジンは根本的に分泌を抑え込むという発想の転換をもたらした。

そしてその革新の背後には一人の科学者ジェームズ・ホワイト・ブラックの存在があった。ブラック博士は薬理学の天才であり、ベータ遮断薬とH2ブロッカーの両方を開発した人物だ。

彼の功績は、単に新しい薬を作っただけではない。それは病気に対するアプローチそのものを変えたのだ。彼の仕事は1988年にノーベル生理学・医学賞を受賞する形で認められた。


しかし胃酸との戦いの物語はここで終わらない。

1980年代になると、新たなヒーローが舞台に登場する。それがプロトンポンプ阻害薬。


PPIはH2ブロッカーを凌ぐ性能を持ち、まるでジェットエンジン機がプロペラ機を置き去りにしたようなインパクトを医療界に与えた。

PPIは胃酸を分泌する細胞内のプロトンポンプ(H+/K+-ATPase)を直接阻害することで、酸の分泌をほぼ完全に止めるという、より根本的なアプローチを採用した。その結果、胃酸過多による症状は劇的に改善し胃潰瘍や逆流性食道炎の治療がかつてないほど効果的になった。

世界初のPPIとして有名なオメプラゾールはまるで新時代の象徴のように登場した。医師たちはその効果の高さに驚き、患者たちはその恩恵を受けることで生活の質を大きく向上させた。

H2ブロッカーがかつての英雄だったとすればPPIはその後継者として、さらに高い場所へ人類を導いた存在。


そして2015年、そのPPIの限界をも超える薬としてタケキャブ(ボノプラザン)が登場した。


タケキャブはPPIとは異なりカリウムイオン競合型アシッドブロッカー(P-CAB)と呼ばれる新しい機序を採用している。この薬は胃酸分泌をより迅速かつ強力に抑える能力を持ち、特に難治性の逆流性食道炎やピロリ菌除菌療法において注目を浴びている。

タケキャブの登場は胃酸制御の歴史にまた新たな章を加えた。

H2ブロッカーからPPI、そしてP-CABへと続くこの進化は人類が胃酸という見えない敵に打ち勝つための終わりなき探求を象徴している。





プロトンポンプ阻害薬の作用機序


そもそも胃酸(塩酸、HCl)はどうやって作られるのか?

胃の壁細胞にあるプロトンポンプが細胞の中から細胞の外(胃の中)へ水素イオン(H+)を運び出すことで胃の中が酸性になる。

このプロトンポンプはαサブユニットとβサブユニットから構成されていてαサブユニットがH+を運ぶ本体、βサブユニットはプロトンポンプという構造を物理的に支える役割。


そして胃酸分泌を促進する物質は一つだけではない。

   物質名              結合した後のシグナル伝達
アセチルコリンM3受容体に結合しCa2+濃度が上昇しプロテインキナーゼ活性化。
ヒスタミンH2受容体に結合するとcAMP濃度が上昇しプロテインキナーゼ活性化。
ガストリンCCK-B受容体に結合しCa2+濃度が上昇しプロテインキナーゼ活性化。



さて、ここでPPI(プロトンポンプ阻害薬)とP-CAB(カリウムイオン競合型アシッドブロッカー)の登場。これらはどちらもプロトンポンプを阻害することで胃酸の分泌を抑える薬だが作用の仕方が違う。

プロトンポンプ阻害薬は酸性環境で活性体(スルフェンアミド)に変化する。

この活性体がプロトンポンプのαサブユニットにある特定の部位(SH基)に結合することで、プロトンポンプの働きを不可逆的に阻害する。

PPIはいったん結合すると薬が分解されるまで効果が持続する。酸性の環境で活性化される必要があるため効果の発現に時間はかかるがエンジンが掛かると効果が持続する。

競馬で言うとスタートが苦手で出遅れやすい馬だがスパートすると長い末脚を使えるディープインパクトのような薬、それがプロトンポンプ阻害薬。

(ちなみにH2ブロッカーがPPIより優れている点に即効性がある。スタートダッシュが得意でゲートを出るのが上手い馬がH2ブロッカー。ただ耐性がついて効果が落ちやすい。バテやすい逃げ馬、ツインターボのような薬がH2ブロッカー。)



そんなPPIと比べて最新のP-CABは酸性の環境で活性化される必要がない。

直接プロトンポンプのαサブユニットに結合してカリウムイオン(K+)と競合することでプロトンポンプの働きを阻害する。そのためPPIよりも速く効果を発揮する。

PPIは酸で活性化されてからプロトンポンプに結合するのに対し、P-CABは直接結合する。ここが一番の違い、この点が効果発現時間の差に表れてくる。

つまりスタートダッシュを決める即効性があり、なおかつそのまま圧倒的な力でゴールしたサイレンススズカのような薬、それがタケキャブという薬。




適応症の違い

  • 胃潰瘍、十二指腸潰瘍、逆流性食道炎:5剤すべて適応がある。
  • 吻合部潰瘍:PPI4剤すべて適応が有りタケキャブは適応が無い。
  • 非びらん性胃食道逆流症はPPI4剤すべて適応があるが、それぞれ低用量(パリエットは10mg錠)しか適応が無い。タケキャブには10mg錠にすら適応が無い。
  • Zollinger-Ellison症候群:PPI4剤すべて適応が有りタケキャブは適応が無い。
  • 潰瘍の再発抑制:オメプラール以外は適応がある。しかし低用量の規格しか使えない。
  • パリエット5mg錠にアスピリンによる潰瘍予防に適応あり。NSaids潰瘍予防には使えない。

保険適応は臨床試験を行わないと認められない。適応が無いということ=薬理的に効果が無いというわけではなく保険制度として使えないというだけ。


なのでタケキャブは他のPPIと比べて強力に胃酸を抑えるのに適応症が少ないのは臨床試験を行っていないから。臨床試験は行うにもお金がかかるので敢えて適応を取らないという選択肢も製薬会社にはある。

タケキャブの承認は2015年でそろそろ特許切れが見えてくるので新しい適応を得るために臨床試験をするのかはわからない。





併用禁忌薬

5剤すべて禁忌薬は共通。抗HIV薬であるレイアタッツ(一般名アタザナビル)とエジュラント(一般名リルピビリン)は一緒に服用できない。


レイアタッツとエジュラントは抗HIV薬。細かい分類だとレイアタッツはプロテアーゼ阻害薬、エジュラントは非核酸系逆転写酵素阻害薬。


レイアタッツとエジュラントは、酸性の環境でよく吸収される性質を持っている。ところがPPIは胃酸の分泌を強力に抑えてしまうため胃の中が中性、あるいはアルカリ性に傾いてしまいレイアタッツとエジュラントの抗HIV効果が十分に得られなくなってしまう。


もしレイアタッツまたはエジュラントを服用しているならPPIの服用は避けるべき。もし胃の調子が悪い場合は他の胃薬、防御因子増強系の胃薬を選択するといいだろう。

*レイアタッツは2024年で販売中止。




プロトンポンプ阻害薬の共通点

  • 胃壁細胞のプロトンポンプのαサブユニットの-SH基に共有結合
  • 基本骨格はベンズイミダゾール誘導体
  • ステムはプロトンポンプ+ベンズイミダゾール=プラゾール
  • プロドラッグであり効果発現に体内で代謝が必要
  • 効果発現に時間がかかる(3日~)
  • 酸に不安定で腸溶性コーティングされている
  • 主な代謝酵素はCYP2C19で個人差があり効果の差に繋がっている
  • 併用注意する薬で代表的なのはプラビックス(クロピドグレル)
  • H2ブロッカーと違い血中に存在しなくても効果が続く(PPに共有結合してるから)
  • プロトンポンプは1日で25%入れ替わるので24時間効果発現は難しい
  • 通常、胃潰瘍では8週間まで、十二指腸潰瘍では6週間まで
  • PPI長期服用で腸管感染症や骨粗鬆症のリスク上昇が報告されている





それぞれの薬の特徴


オメプラール(一般名:オメプラゾール)

  • 商品名の由来は「一般名であるオメプラゾール」から
  • 世界初のプロトンポンプ阻害薬
  • 海外商品名はLosec
  • PPIの基本骨格であるベンズイミダゾール誘導体はチモプラゾールからの構造変化
  • ラセミ体(R体とS体が1:1の混合物)
  • 1996年に世界一売れた医薬品
  • 注射剤が存在する
  • 要指導医薬品オメプラールS、サトプラールを販売するのは佐藤製薬


タケプロン(一般名:ランソプラゾール)

  • 商品名の由来は「タケダのプロトンポンプインヒビター」
  • 日本(武田薬品工業)が開発したPPI
  • 海外商品名はPrevacid
  • ピリジン基にトリフルオロエトキシ基を導入し胃酸に対して安定性↑
  • OD錠は乳鉢などで顆粒を潰さないように崩せる、カプセルは脱カプセルOK
  • アスピリンとの合剤タケルダ
  • 注射剤が存在する
  • 下痢の副作用が目立つ
  • 要指導医薬品タケプロンSを販売するのはアリナミン製薬


パリエット(一般名:ラベプラゾールナトリウム)

  • 商品名の由来は「標的細胞Parietal Cellから命名」
  • 日本(エーザイ)が開発したPPI
  • 海外商品名はAciphex
  • 他のPPIよりも酸に対し不安定なのでフィルムコーティング
  • 粉砕は不可
  • CYP2C19に依らず非酵素的代謝なので個人差が少ない
  • クロピドグレルやワルファリンに影響がないので併用可能
  • 要指導医薬品パリエットSを販売するのはエーザイ


ネキシウム(一般名:エソメプラゾールマグネシウム水和物)

  • 商品名の由来は「Next Millennium :次の1000年を担うPPI」
  • 2023年度の売り上げは9.45億ドル
  • オメプラゾールのS-体だけ、S-オメプラゾール
  • チタン触媒を製造過程で利用し光学分割
  • 最大のメリットは個人差の少なさ
  • カプセルの中身は顆粒
  • 懸濁用顆粒あり(15mLの水に懸濁3分ほど置いて粘性が増してから30分以内に服用)
  • ↑の味は甘味とわずかな酸味
  • 小児に適応がある(1歳以上)
  • 維持療法として減量せず20mgを継続可能


タケキャブ(一般名:ボノプラザンフマル酸塩)

  • 商品名の由来はタケダのP-CAB(Potassium-Competitive Acid Blocker)
  • 海外商品名はVOQUEZNA(販売会社はPhathom Pharmaceuticals)
  • 2023年度の売り上げは1,185億円
  • 最も酸分泌抑制作用が強い
  • 即効性がある
  • 酸性環境下でも安定しているためタケプロンよりも長時間作用
  • ピロリ菌除去においてタケプロンよりも除菌率が高い
  • アスピリンやNSaidsによる潰瘍予防には10mg錠しか使えない
  • 吻合部潰瘍、Zollinger-Ellison症候群、非びらん性胃食道逆流症に適応が無い
  • 剤型は錠剤のみ
  • アスピリンとの合剤としてキャブピリン
  • 粉砕投与が可能(製薬会社は推奨していない、自己責任というか薬剤師責任)
  • 主な代謝酵素はCYP3A4

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