商品名 | エクロック | ラピフォート | アポハイド |
剤型 | ゲル | ワイプ | ローション |
一般名 | ソフピロニウム臭化物 | グリコピロニウムトシル酸塩水和物 | オキシブチニン塩酸塩 |
効能・効果 | 原発性腋窩多汗症 | 原発性腋窩多汗症 | 原発性手掌多汗症 |
用法・用量 | 1日1回、腋窩に塗布 | 1日1回、寝る前に両手掌に塗布 | |
作用機序 | エクリン汗腺上に存在するムスカリン受容体3を遮断 | ||
主な代謝 | 加水分解(脱エチル化) | CYP3A4、CYP2D6 | CYP3A4、CYP3A5 |
併用禁忌 | 無 | ||
妊婦 | 有益性投与 | 有益性投与 | × |
授乳 | 有益性投与 | 有益性投与 | 有益性投与 |
小児 | 12歳以上 | 9歳以上 | 6歳以上 |
日本承認年 | 2020 | 2022 | 2023 |
製薬会社 | 科研 | マルホ | 久光 |
原発性局所多汗症は手掌や腋窩など限局した部位から過剰な発汗を認める疾患。
そして多汗症には原発性と続発性がある。
原発性とは思い当たる原因や理由が無いのになぜか汗が出る場合に使う。血圧でいうなら本態性とかそんな感じの専門用語。
そもそも人はなぜ汗をかくのか?
それはアセチルコリンという物質が汗腺にあるムスカリン受容体M3に結合し汗が出る。汗チルコリンで汗が散る。
原発性でも続発性でもその大筋は変わらない。
だが続発性には原因があるのでその原因をなんとかするのが先決。オウム真理教が使ったサリンは間接的にアセチルコリンの量を増やすので全身から汗が出る(薬剤性多汗症)。
そんな時に悠長にエクロックゲルやアポハイドローションで汗を止めても仕方ない。まずはサリンをどうにかしよう。
原発性というのはサリンなど特定の原因が無い場合。原因が無くて診断基準に該当すると原発性多汗症と診断され治療薬の出番となる。
エクロック、ラピフォート、アポハイドは全て共通の作用機序で汗を止める。
アセチルコリンがエクリン汗腺上のムスカリン受容体M3に作用して汗が出るならそこを邪魔したら良いというシンプルな作用機序。
人体の働きに欠かせない物質アセチルコリンとそれをブロックする薬というのはもう半世紀以上前から登場している。
プロ・バンサイン(一般名:プロパンテリン臭化物)という抗コリン作用を持つ内服薬は1953年に日本で承認されていて、今でも全身性の多汗症に用いられている。
漢方以外で唯一の全身性多汗症に適応を持つ薬だが口喝や便秘といった副作用が出やすい。服用したら1時間ほどで効果が出る即効性もあり体に合う人にとっては良い薬なのだが。
脇や掌からだけ汗が出る人に全身性の副作用があると使用しにくい。
これまで多汗症の治療はイオントフォレーシスや交感神経節遮断術、塩化アルミニウム外用などいろいろあるが一長一短。
そんなとき患部だけに塗って効く小回りの利く薬が登場。それがエクロックゲル、ラピフォートワイプ、アポハイドローション。
エクロックゲル | ラピフォートワイプ | アポハイドローション | |
用法・用量 | 1日1回、適量 | 1日1回、1包 | 1日1回、就寝前に適量 |
3剤全て1日1回でOKだが使い方が大きく異なる。
エクロックゲルはアプリケーターとツイストボトルの2形態。どちらも成分が直接手に触れないためのものでもし手に触れたらすぐに水で洗い流す。エクロックゲルは脇汗の薬で手掌多汗症の薬ではないから。
ラピフォートワイプは使い切りタイプの制汗シート。使うときに成分が手に付くがそのままの状態で目を触るとまぶしくなってしまうので目を洗うこと。
アポハイドローションは逆に手に使うための薬なので塗ったあと手を洗ってはいけない。手を洗うのは次の朝起きたとき。効果が出るようにサランラップとかで密封してはいけない。適量と書いているが具体的に5プッシュと指定されている。
エクロックゲル | ラピフォートワイプ | アポハイドローション | |
閉塞隅角緑内障 | ● | ● | ● |
前立腺肥大による排尿障害 | ● | ● | ● |
重篤な心疾患 | ● | ||
腸閉塞 or 麻痺性イレウス | ● | ||
重症筋無力症 | ● |
閉じたタイプの緑内障と前立腺肥大による排尿障害が禁忌なのは抗コリン作用を持つ薬剤であれば当たり前。だが手汗は25歳以下の若年層に出やすく、緑内障や前立腺肥大は60歳以上の高齢者に出やすい。なのでこれからの禁忌は販売する上でそこまで邪魔にならないと思う。
アポハイドローションの禁忌が他より多く見えるがこれは同じ主成分の内服薬オキシブチニン(ポラキス錠)に添付文書を合わせているから。臨床試験で実際にMGとかが出現したわけではない。
エクロックゲル | ラピフォートワイプ | アポハイドローション | |
皮膚炎 | ● | ● | ● |
湿疹 | ● | ● | ● |
口渇 | ● | ● | ● |
紅斑 | ● | ||
そう痒感 | ● | ● | |
刺激感 | ● | ||
排尿障害 | ● | ● | |
頻尿 | ● | ||
羞明、散瞳、霧視、ドライアイ | ● | ||
皮脂欠乏症 | ● |
外用薬なので3剤とも合わなければ使用部位に炎症が起きたり痒くなる。
他の副作用を見てみるとエクロックゲルは紅斑や刺激感があるしラピフォートワイプは視覚に影響がでやすい。
アポハイドローションに特徴的なのは皮脂欠乏症。添加物として無水エタノールがアポハイドローションには含まれているのでそのアルコールが皮脂を分解して欠乏症となるのか?
しかしエクロックゲルにもラピフォートワイプにも無水エタノールが含まれているし・・・
脇の場合は皮脂欠乏症になっても手より気にならないからかもしれないが
エクロックゲル
- 商品名の由来はエクリン汗腺のムスカリン受容体をブロックから。
- 主成分ソフピロニウム臭化物はBodor Laboratories社が創成
- 日本では科研製薬が開発・販売。
- 1日1回両方の脇に1プッシュ。使用タイミングに指定は無いが臨床試験は就寝前
- 製剤規格が2つ
- 20gで2週間分、40gで4週間分
- 12歳上から使用可能
ラピフォートワイプ
- 商品名の由来はRapid(速く)+Comfort(快適に)
- 主成分グリコピロニウムトシル酸塩水和物はDermira, Inc.社が創成
- 日本ではマルホが開発・販売
- 一回使い切りタイプの白い布
- アルコール臭がする
- 使用後は直ぐに手を洗う
- 9歳から使用可能
- 米国では2018年に発売、規格は3.75%と高濃度
- グリコピロニウムの臭化物塩が主成分の薬に気管支拡張薬シーブリやウルティブロがある
アポハイドローション
- 商品名の由来は特になし(アポはギリシャ語で分離、ハイドロは液体?)
- 主成分オキシブチニンの開発者は不明
- 日本初の原発性手掌多汗症治療剤
- 6歳から使用可能
- オキシブチニンは排尿障害治療薬ポラキス錠としても存在
- 活性代謝物N-デスエチルオキシブチニン(N-Desethyloxybutynin:DEO)も作用に関与
- 1本は1日1回5プッシュ使用すると1週間分に相当